2重PLL同期検波によるDirect Conversion FMラジオ-1
■概要
「Analog TV Tuner/VIFで作るAir Band RX」で、Super HeterodyneとPLL同期検波の組み合わせによるAM RXを報告しましたが、今回はFM Rxを検討報告をします。
折角ですからHeterodyneではなくDirect Conversionにしたいと思います。
■原理
PLL同期検波によるAM復調は90°移相回路が必要なのに対して、FM復調の場合はVCOの制御電圧がそのままFM復調電圧になるので、回路がシンプルというメリットがあります。
東芝レビューに復調原理の説明があります。
この中の「2.2 直接引き込み型受信機」(図4)が基本回路です。
文中にもあるように、VCOの発振周波数内に強力な信号があった場合それを引き込んでしまう欠点があり、これは「Analog TV Tuner/VIFで作るAir Band RX」でも同じで、受信周波数がどんどん移動してしまうという習性があります。
またVCOが自励発振なので周波数の安定度も問題になります。
この欠点を解決するのが「3 デジタルPLL再生型無線受信機」(図5)の2重PLL回路です。
この回路ではデジタルループのFrequency Synthesizerで受信周波数が決まりますから、アナログループによるVCOの可変範囲が適正であれば隣接チャンネルを引き込むことはありません。
またFSK復調信号はデジタルループの制御電圧から得ています。
ただこの回路はVCOが一つでかつPLLがアナログとデジタルで構成されていて、回路の詳細が良くわかりません。
そこでアナログPLLを使った2重PLL回路を考えました。
すなわちXtal発振のFrequency SynthesizerでVCOを制御して受信周波数を設定する第1のループと、そのXtal発振周波数を変化させる第2のループでFM復調する2重のループを持つPLL回路です。
良いアイデアだと思って特許検索したら、特許2859037「2重PLL回路」や特開昭63-31314「位相同期回路」が見つかりました。ほかにも似たような出願もあり、同様のアイデアが30年くらい前に出願されていることがわかりました。
出願の主旨は、自励発振回路の安定度が劣っていても、あるいは入力信号が一時的に切れても、安定して入力信号を引き込むことができるというもので、私の狙いと同じです。
諸先輩に敬服です。
■原理回路
上記の特許には「2重PLLはループフィルタの構成によっては不安定」との記載があるので、まずはどのような条件で2重PLL回路が成り立つのか下記の原理回路でSimulationしてみます。
この原理回路は上記特許の[図4]従来回路と同じで、「安定動作は期待できない」と記載されています。
回路の上半分は水晶発振のPLL回路、下半分は自励発振のPLL回路です。
ループフィルターはともに同じ定数で、CRの値はテキトーです。
入力信号はt=0~20usecのとき無信号、t=20~60usecのとき4.1MHz、t=60~1000usecのとき3.9MHzと切り替えます。FSKですね。
各VCOの発振周波数を水晶発振はFSKの中心周波数の4.0MHz、自励発振は多少ずれた想定で4.5MHzとします。
また上記の特許の[請求項1]に倣って各VCOの周波数感度を水晶発振<自励発振とし、水晶発振は1MHz/V、自励発振は10MHz/Vとします。
この状態でSimulationすると、下記のようにうまく動作して、4±0.1MHzのFSKが復調されました。
そこで今度は水晶発振の周波数感度を自励発振と同じ10MHz/Vにすると、下記のようにうまく動作しません。
このSimulationから、[図4]従来回路でも周波数感度を水晶発振<自励発振とすれば、[請求項1]に記載されているように水晶発振のループフィルタの出力を自励発振のループフィルタに加算しなくても安定動作することがわかりました。
この原理回路では2つのループフィルタの応答特性が同じですが、2つのループフィルタの応答特性に差をつけても、自励発振の周波数感度が水晶発振の10倍もあれば問題なく動作しました。
一般に水晶発振の周波数可変範囲は数10ppmなので、自励発振より大幅に小さく、周波数感度は自動的に水晶発振≪自励発振となります。
したがって[請求項1]に記載されているように2つのループフィルタの出力を加算処理しなくても安定動作することが期待されます。
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