2024年10月7日月曜日

Receiver 3.4:Dual PLL Synchronous Direct Conversion FM Radio

2重PLL同期検波によるDirect Conversion FMラジオ-2

■概要
Receiver 3.1で、Xtal発振を参照して自励発振のVCOを制御するの第1のPLLループと、そのXtalによるVCXOの発振周波数を制御する第2のPLLループを持つ2重PLL回路が、ループの応答特性に差をつければ特別な配慮をしなくても動作する可能性があることを報告しました。

それを実証しようと思い基板を組んだところ、PLLが発振状態というのでしょうか、安定しません。

そこで特許2859037の請求項1を試したところ、見事ロック。
さすが特許になっただけのことはあると実感しました。

■基本回路
2重PLLの回路構成は2種類あります。

第1の方式は第1のVCOを固定分周し、第2のVCOの周波数を可変にして、第1の位相検波回路に入力するものです。
第2の方式は第1のVCOを可変分周し、第2のVCOの周波数を固定にして、第1の位相比較回路に入力するものです。
いずれの方式においても、R3が特許のポイントで、この抵抗がないとPLLが発振してしまいます。

■目標規格
1.受信周波数:80MHz~93MHz
2.選局:VRによる連続可変
3.感度:-75dBm(S/N=40dB@40kHz dev)

■回路図
ブレッドボードレベルですが、第1方式の回路です。
(1)第1のVCOはコルピッツで、Vari-Capで発振周波数を80MHz~93MHz変化させます。
出力の一方をµPB571Cで64分周します。
5Vで13MHz変化なので、VCOのKファクターは2.6MHz/Vになります。
もう一方の出力は第1の位相比較回路に入力します。

(2)第2のVCOはOP AmpとCRで構成し、VRで発振周波数を80MHz~93MHzの1/64の1.25~1.45MHz変化させ、さらにVari-Capで5Vで約3KHz程度変化させます。
この3KHzはとりあえず実験的に決めた値です。
64倍して受信周波数に換算すると約200KHzになり、FM放送の最大周波数偏移を考えるとまあ妥当かなと思います。
したがってKファクターは40KHz/Vです。
このVCOはCMOS Gateのシュミットトリガで構成することもできますが、周波数の電源電圧変動が大きいのでOP Ampのシュミットトリガにしました。

(3)第2の位相検波回路はµPD2833Cで、レベルアップした64分周出力と第2のVCO出力を位相検波しチャージポンプとループフィルタを経由して第1のVCOのVari-Capに帰還します。

µPD2833Cの位相検波回路は入力波形のDutyを50:50に、また立上がりと立下りを急峻にしないと完全な動作が期待できないようでしたので、VとR の前にInverterを挿入しました。

(4)最後に特許に従って、第1のループフィルタの出力を第2のループフィルタに抵抗を介して印加します。

(5)「PLL同期検波によるDirect Conversion FMラジオ-1(修正版)」で、S/Nを不問とすれば感度はキャプチャーレンジで決まり、キャプチャーレンジはVCOのKファクターに依存することを報告しました。
Dual PLLのキャプチャーレンジは、OP AmpのDC Gainとループフィルター特性が同じであれば、第2のVCOのKファクターで決まると考えられます。
上記のように40KHz/Vなので「PLL同期検波によるDirect Conversion FMラジオ-1(修正版)」を参考にすればLNAなしで-50dBm程度ということになります。

■受信の動作確認
とりあえず「PLL同期検波によるDirect Conversion FMラジオ-2」のRF基板+ブレッドボードに組んでみたところ、確かにLNAなしで-50dBm程度の感度になりました。

ところがRF入力が-30dBm以上で、PLLが発振のような状態になり、受信不能なりました。
そこで特許2859037の請求項2に従って、上記回路図のR12とR20をCut&Tryして、各ループフィルター電圧の加算比を変えてみたところ確かに改善しました。

とりあえずLNAを前置して、感度を測定しました。

弱電界のLock外れと強電界PLL発振はともにまだ性能不十分で、さらなる検討を要します。














2024年10月5日土曜日

Receiver 3.3:PLL Synchronous Direct Conversion FM Radio

 PLL同期検波によるDirect Conversion FMラジオ-2

■概要
Receiver 3.2で、LNA込みの感度は少なくとも-90dBmが期待できると報告しました。
ただ感度アップすると、VCOの出力がアンテナやLNA・Mixerの入力に飛び込み、PLLが自分自身のVCOにロックしてしまうという本質的な問題に突き当たります。
IQ復調によるDirect Conversionでは、この問題はDCオフセットとして有名ですが、PLLでは自分自身にロックしてしまうという現象になります。
そこで実際にFMラジオを組んでみて、どうしたら安定に動作するかを検証します。

目標仕様
1.受信周波数:75MHz~95MHz
2.感度:-90dBm (S/N:40dB@40kHzdev)
3.選局:VRによる連続可変
4.Capture/Hold Range:±100KHz

■基本設計
このFMラジオ基板はFMラジオ-1のSimulationと同じ構成です。
位相検波回路にSA612Aを使い、誤差出力をOPアンプ(NJU77701F)で増幅してVCOに帰還します。
FM出力は誤差増幅回路の出力からディエンファシス回路を経由して得ます。
VCOはSA616Aのコルピッツ発振回路を使ったところ、まさに発振出力がMixerに回り込んでしまったので、やむなく外付けにしました。発振回路は「広帯域VCO」の稿で述べた正帰還形発振回路です。
周波数は電流制御とし、選局VRの電流と誤差制御回路の出力電流を加算します。選局VRは75MHz~95MHzをカバーし、誤差制御回路の出力で±500kH変化させます。

基本回路(LNAなし)を下記に示します。
選局の電圧Vcを0~5V変化させた時の発振周波数が下記です。

■回路図

■基板
自作両面基板なので、部品面と裏面ベタアースのスルーホールが十分とれません。できるだけ多く基板の裏表を半田で接続することにします。
基板は高周波部のみで、OPアンプとAF部は別基板です。(略)


■感度測定
ディエンファシス回路はありません。
-90dBmまで順調ですが、-95dBmになるとロックが外れ気味になります。
また-20dBmではPLLが不安定になります。

参考程度ですが、感度は約-80dBm (S/N:40dB@40kHzdev)となりました。
また最大S/Nは35dBで、これは受信周波数範囲に対して変調周波数偏移が小さいためと考えます。

■まとめ
FM放送を受信するために2/λダイポールアンテナ接続すると、基板むき出しの場合、VCO出力がアンテナに飛び込んで安定した動作を得られませんでした。
安定した動作が得るためには、すべての基板をアルミのシールドケースに収めなければなりませんでした。
シールドケースがあれば、そこそこの音質で受信できました。
またLNAを前置したところ、シールドケースがあっても安定した受信ができませんでしたので、今のところLNAなしで受信しています。












2024年1月29日月曜日

Receiver 1.5:超再生AMラジオ

 超再生AMラジオ

初めに
約1年前に発表した超再生AMラジオの改訂版です。
ラジオで学ぶ電子回路 - 再生・超再生ラジオ (rf-world.jp)で著者の藤平氏は「クエンチング周波数を人間の耳には聞こえない20kHzとすると、その周期の半分25μsecが発振期間となります。受信周波数を1MHzとすれば、この期間ではこの受信周波数は25サイクルしかありません。0.5MHzでは、実に12サイクルしかありません。もう少し多いサイクルが望ましいのですが、どうしようもありません。ですから、AM中波放送は超再生にあまり適していないといえます。」とおっしゃっています。
また再生回路_超再生検波とは - わかりやすく解説 Weblio辞書では「サンプリング定理による制限のため、クエンチング周波数は受信したい信号の帯域幅の最低でも2倍以上にしないと音質が悪くなる。ラジオなどの用途では人間の耳に聞こえない20 kHz以上の周波数にする。
クエンチング周波数をあまり低くすることができず、入力信号のサンプリングに相当する発振の立ち上がりにも一定の時間が必要で、同調回路のQ値が高いと発振の停止にも時間がかかるため、超再生検波回路は低い受信周波数で十分な性能を得ることができない。そのためVHF帯以上の周波数で使用されることが多い。」とあります。
どちらも「超再生のAMラジオは難しい」と言っていますが、その理由の説明は「weblio 超再生検波」の方が当を得ていると思います。

なぜ超再生AMラジオは難しいのか
まず、QL=50の27MHzの発振回路を20kHzでON/OFFしてみます。
結果のみ示すと、下記のようにきれいな間欠発振をしていることがわかります。
次に、QL=50のまま周波数を500kHzに下げると、完全にOFFするまでに時間がかかり、間欠発振ではなくなることがわかります。
そこでQL=10にするとやっと間欠発振になります。
AM超再生ラジオを作るには完全な間欠発振でなくても動作すると思いますが、QL=10くらいが必須であることがわかります。
超再生回路のSimulation
前と同じように、新形式の回路でSimulationしてみます。。
最初はTRを使った回路とSimulation結果です。
なおL4/L6はラジオデパート3階のシオヤ無線電機商会で買ったバーアンテナです。残念ながら2023年11月で閉店になりました。ご高齢になったご夫妻で切り盛りされていて、私がラジオ少年だったころから通ったお店でした。大変お世話になりました。
設計のポイントはダンピング抵抗R14でQL≒10にすること、実際に受信しながらR8でクエンチング発振をほどほどの強度に、C7でクエンチング発振周波数をほどほどの周波数にすることくらいです。
全く同じ回路定数で、TRをNMOS FETに代えてみます。
使用したMOSFETはVgs(off)がTRのVbe並みということで2SK2451にしましたが、SPICEモデルがないので似たような特性のRE1C001(ROHM)で代用します。

■実機の評価
TRでもMOSFETでも超再生検波としての動作をしていますので、冒頭の写真のようにブレッドボード上に組んで、実際に受信してみました。
良いポリバリコンがないので、受信周波数は固定コンデンサで変えて、コイルの位置で微調しました。容量が150~180pFでNHK-1からニッポン放送まで完全に分離して聞こえました。
MOSFET方式での感度を下図に示します。
10dB S/N感度は-85dBmくらいで何とかOKレベルですが、音質(歪率)が悪いです。
ビート妨害はあまり感じられません。
無信号時のクエンチング波形と周波数スペクトラムです。
受信すると下記のようにノイズが減り、クエンチングの高調波がはっきり見えます。
350KHzのところにある盛り上がりは、受信周波数によってピーク周波数が変化します。
TR方式も試しました。
感度と音質は同程度ですが、ビート妨害が多く気になりました。

■まとめ
QLを10程度にすることで、AM帯でも超再生検波が可能であることを示しました。
この程度のでQLでも許容できる選択度であることがわかりました。
ビート問題は付きまといますが、何とかなる回避することができます。

各素子をもう少し最適化すればもうちょっとましな性能になるかもしれませんが、実用レベルにはなりそうもなく、この程度でおしまいにします。








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