2021年12月21日火曜日

Oscillator 1.1:広帯域VCO

正帰還形GHz VCO(その1)


■ 概要
「Discreteで作るGHz VCO」で、発振出力を取り出す方法については続編に譲ると述べましたので、この稿でそれを考察します。

■ 目標仕様
最大発振周波数:2GHz
出力レベル:0dBm

■ 回路とPCB
回路は正帰還形の発振回路をシングルエンドに変形して、エミッタフォロアを付加したものです。
          
PCBは2.54mmピッチのユニバーサル基板なので、寄生LCが無視できません。
乱暴ではありますが、Simulationと実測結果を見比べて、上記回路のL1とC1を補正します。
L1=4.7nHのときのSimulationと実測の差から、実効の値はL1=8nH、C1=0pFと見込まれます。すなわち寄生Lは約3nH、寄生Cは無視できるレベルということになりました。
実測の結果は下記の通りです。


■評価
冒頭の写真は出力にSanjian Studio社の7digit LCDカウンターPLJ-0802-Aを接続したものです。
このカウンターはamazonで¥1,686で購入しました。中国本土からChina Postで配送されたので2週間半かかりました。コロナで物流が混乱していますので、普段ならもう少し早いと思います。
英語版の仕様はPLJ-0802-Aへ。
L1=4.7nHのとき、最大発振周波数:1GHz、出力レベル:-4~-6dBmでした。
基板が基板ですのでこんなもんでしょう。

この発振回路の出力レベルは±Vbe p-pなので、(その2)で目標の0dBmにするために、帰還回路にダイオードを挿入して出力レベルを±2Vbe(p-p)にする検討報告をします。


2021年10月25日月曜日

Receiver 1.4:超再生(新形式の回路)

超再生回路を定量的に考察してみました(その4)

■概要
TRを2SC5066に変えたところ、感度が10dBほどアップしました。
超再生RXでもfTが高くNFが低いTRの方が性能が良いということでしょうか?
はっきりした理由はわかりません。

■Simulation
前回と同じ回路です。2SC5064と2SC5066とはパッケージ違いです。
Vcc=2.5V、C7=2.2nFでSimulationしたところ、-6dBの感度(最大感度)はなんと-130dBmとなりました。
熱雑音を考慮していないためですが、それにしても驚きです。

■実機の評価
Vcc=3V、C7=4.7nFとして評価しました。
2SC1815と同じ傾向ですが、S/N10dB感度は-105dBm近辺と10dBほど感度アップしています。
1kHz出力の落ちはじめも約-100dBmで、Simulationと一致しています。
また6dB帯域幅は2SC1815と同じ±0.3MHzでした。
C7とクエンチング周波数・出力レベルの関係をあらためて測定しました。
クエンチング周波数がC7と反比例の関係にあることは想定通りで、一方出力レベルはほとんど変わらないことを確認しました。
C=1.8nFのとき、弱電界で動作不安定になりました。パスコンとクエンチング周波数調整が兼用になってるのが原因かと思い、エミッタ側CR方式に変えてみましたが、傾向は同じでした。
一般に発振回路が発振するにはある程度の時間が必要です。またQが高いほど発振開始までの時間が長くなります。例えばXtalではmsecオーダーの時間がかかります。多分、クエンチング周波数が160kHzにもなると発振が間に合わなくなると思われます。中電界以上で動作し始めるのは、RF入力があると発振開始時間が早くなるためと考えられます。

■まとめ
新形式の超再生RXは感度・選択度・再現性の点で従来型のColpitts方式に比べて優れているように思えます。
可能性は秘めていますが、まだ解析の余地がありますので、引き続き検討します。


2021年10月24日日曜日

Receiver 1.3:超再生(新形式の回路)

超再生回路を定量的に考察してみました(その3)

■概要
新形式の超再生回路の提案です。
部品点数が少なく、高感度で再現性の良い回路です。

■原理
超再生回路の原理は、クエンチング(間欠)発振している回路にRF信号を印加すると、その振幅に応じてクエンチングの幅や周期が変化するので、それを平滑してAM復調するというものです。
発振回路はなんでも良く、一般的にはColpittsが使われますが、Colpittsの難点は調整を要する箇所が多いので、最適な動作点を求めるのが結構大変な点です。
部品点数の少なければ、調整ポイントも少ないので、その分検討が楽になります。

■新形式の回路
VCO技術の発展の歴史の「モノリシックVCO」に記載された差動正帰還形発振回路を参考にしました。
基本形は差動ですが、それをシングルエンドに変換することができます。
クエンチング発振をさせるには、他励式という選択肢もありますが、他の回路と同様エミッタにLとCR回路を挿入するだけでクエンチング発振します。
発振周波数はRCの時定数で決まります。
下記が実際の回路です。CR回路はコレクタ側に挿入しても、全く同じ結果になります。
この回路の良いところは部品点数が少ないことと、安定性というか再現性が極めて高いことです。
■Simulation
とりあえずコレクタ側にCRを入れる回路でSimulationしてみました。
上図のTRは2SC5064ですが2SC1815に変えて、Rは発振が持続できる範囲でできるだけ大きく、またCでクエンチング発振の周期を決めます。
最終的にはR52=22kΩ、C7=10nFとしました。L6は最適値の幅が広く、100uHでもOKですが10uHとしました。なおVccは2.5Vです。
Simulationではノイズが定義できず、検波出力からは感度が判断できません。
また6dB帯域幅は約±1MHzとなり、ColpittsのSimulation値の約半分でした。

■実機の評価
実際に組んでみました。
S/N10dBの感度は約-95dBmとラジコン基板より10dBほど良くなっています。
AGC特性はラジコン基板より劣りますが、-20dBmの強電界でも破綻しませんでした。
また6dB帯域幅は約±0.3MHzと特筆すべき狭さでした。
なおエミッタ側にCRを入れる回路でも同じ結果が得られたことを付記しておきます。

■まとめ
新形式の回路がSimulation・実機とも十分働くことがわかりました。
感度はラジコン基板より良く、帯域も狭くいい感じですが、その理由は明確ではありません。ラジコン基板も調整すればもっと良くなるかもしれず、今後の検討課題です。
TRを2SC5066に変えると感度がアップする兆しが見えましたので、次回報告します。



2021年9月21日火曜日

Receiver 1.2:超再生(Simulation)

 超再生回路を定量的に考察してみました(その2)

■概要(2023年9月改訂)
(その1)でラジコン基板の実測をして、超再生RXの良さを実感しました。
今やSimulationで回路設計することは常識、というかSimulationでしか設計できない時代になりました。果たしてSimulationでそれを再現できるか、(その2)で考察したいと思います。

■回路
ラジコン基板と同一の回路ではうまく動作させることができず、試行錯誤して下のような回路に落ち着きました。
また変調周波数は素数が無難と考え7kHzとしました。
クエンチング周波数はその2倍以上にしなければなりません。クエンチング周波数を決定する要素としてはC17/R14が支配的ですが、C15/R13とC16/R12も影響します。
様々な要素がかみ合って、結局下のような定数に落ち着き、クエンチング周波数は20kHzになりました。
Trは27MHzですので2SC1815でオッケーでした。
■Simulation
AMの変調度100%、周波数27MHzのときの各部の波形です。
Transient解析する訳ですが、LPFを介してVdetに含まれる7kHzを抽出してもいいのですが、FFT解析で7kHzを抽出すると解析時間が短いことがわかりました。解析時間を1msecとすると周波数の分解能は1kHzですが、問題ないようです。
RF入力レベルを変えた時のVdet(7kHz)のレベルをもって感度の代用とします。
若干暴れている理由、またS/N比も不明ですが、-90dBmから急激に7kHzのレベルが下がっているので、-90dBmくらいの感度と考えられます。
実際の基板とよく似た結果になったといえます。
帯域幅もSimulationしましたが、十分広いという以上のことはわかりません。参考程度ですね。
ちなみに発振中心周波数は26MHzで、なぜ受信中心周波数とズレがあるのか謎です。

■結論
今回の手法で実際の基板に近い結果が再現されたので、このSimulation法で基礎検討ができそうです。
新しく提案する超再生回路で検討を続けたいと思います。




2021年9月20日月曜日

Receiver 1.1:超再生(おもちゃのラジコン)

 超再生回路を定量的に考察してみました(その1)

■概要(2023年8月改訂)
今からちょうど100年前Edwin Armstrongが発明した超再生回路はシンプルながら高感度のRXとして良く知られています。
ただ何dBuVあるいは何dBmくらいの感度なのか、どの程度のS/N比なのか、受信帯域はどれくらいかといった定量的なデータは検索しても見あたりません。
孫のラジコンの超再生基板があったので実測してみたところ、なんと予想以上の性能で驚きました。

■ラジコンの超再生基板
基板には超再生回路とDecoder/Motor DriverのICが配置されています。
左下が超再生の回路ですが、1608の抵抗値だけは読めますが、L/C/Trについては詳細がわかりません。検索すると「MS工房 秋葉(新津)のブログ」に似た回路がありました。
■性能評価
F=26.8MHz・1kHz/60%AM信号を入力し、AF OutのS/NをAF dB Meterで測定します。
S/N比10dBの感度は-84dBmです。聴感では-90dBmまで了解できます。
LNA(GN1021:Gp=18dB実測 @30MHz/NF=2dB仕様書 @300MHz)を前置すると、さらに感度が上がり-96dBm。ちなみにICOMのIP57のAM S/N 10dB感度が7dBµ(-100dBm)ですから、感度だけは大したものです。
感度もさることながら、驚いたのはAGCが働いていると思わせるほどAF出力が一定であったことです。
検波がPWM(Pulse Width Modulation)として動作しているためと考えられますが、それにしても50dB以上のAGC Rangeがあるとは驚きです。
この辺はWWikipedia再生回路に記述があります。
それによると、超再生検波の動作にはリニアモードとログモードがあり、リニアモードはPAM、ログモードはPWMで動作している、とあります。
特にログモードはAGCの機能があるともあり、あらためてそれを実感しました。
選択度は良いというコメントも見受けられますが、Wikipediaでは良くないとあります。
S/N比20dBの6dB帯域幅を実測すると、中心周波数の7%と決して良くはありませんでした。本当は2信号選択度で評価すべきなんでしょうが、別の機会に譲ります。
また、復調帯域は約5kHzでした。

■感度の計算式
一般にAMの感度は、S=kT+BW+NF+S/Nと表されます。
27℃のkT=-174dBm、BWはIFとAFを合算して決まる帯域ですが、上の図から10kHzと仮定するとBW=30dBになります。
S/N=10dBなので、-84=-174+30+NF+10、したがってNF=50dBと計算されます。すなわち大雑把に言えば、S/N 10dB感度-84dBmということはNF=50dBに相当するということです。
ここにLNAのGN1021(Gp=18dB @30MHz/NF=2dB @300MHz)を前置すると、そのときのNFは2+50-18=34dB と計算され、NF改善度は50-34=16dB、すなわちLNA前置時は-84-16=-100dBmということになり、NFがもう少し悪ければ実測値とほぼ一致します。

(その2)では、Simulationでは一体どのような結果になるかを考察してみます。


2021年9月19日日曜日

Measuring Instrument 2:AF dB Meter

TL074Lを使ったAF dB Meter

■概要
AudioのS/N比の測定は帯域約3kHzのTrue RMS機能がついたDVMで行っています。ただし、その値をいちいちdBに変換するのは結構面倒です。また表示される値が変動して読みにくいので、AF dB Meterなるものを製作しました。
AD8307ANZなどのLog Ampを使えば簡単ですが、あえてDiscreteで組みました。といってもOPアンプTL074Lを使ったRSSI方式です。
目標規格は、入力レベル-80dBV~0dBV・F特20Hz~20kHzです。

■基本回路とSimulation
回路はGv=10dBのアンプを7段つなげ、各段の出力をピーク検波して、検波電流をカレントミラーで加算する方式です。OPアンプは当初LM324でしたが、スルーレートが悪いのでTL074Lに変更しました。
Simulatorにノード数制限があり7段のOPアンプが定義できないため、仕方なく10dBの理想アンプにダイオードのリミッタを組み合わせてOPアンプの代わりとしました。
DC直結なので、Transient解析ではなくDC解析でSimulationしました。
その結果です。-60dB≒1mVdc≒-63dBVまで直線性を保っています。
■回路図(2022/06/19更新)


当初案から変更したのは以下のとおりです。
(1)TL074L直結ではDCオフセットが無視できなかったので、IC間はAC結合にしました。
(2)初段の入力抵抗は100kΩでしたが、安定度に難があり10kΩに変更しました。
(3)-5Vは当初TL7660でしたが、発振周波数10kHzが影響する恐れがありMAU106にした。±5Vの入力変動があり改善が必要です。
(4)カレントミラーは温特を考慮してDual Trにしました。

MAU10が壊れてしまいましたので、-5V生成をNJM2360に変更し、温特などの改善を行いました。

■PCB

■性能評価(2022/06/19更新)
校正が微妙です。0dBV入力にしてVR1で0dBV表示に調整、-60dBV入力にしてVR2で-60dBV表示に調整します。
直線範囲は-70dBV~0dBV、F特は40Hz~20kHz以上(50kHz程度)でした。
電源電圧の5Vに敏感です。
Simpleが信条にもかかわらず部品点数が多くなってしまいました。
もう少し温特の改善が必要です。
AD8307ANZを使ったらもっと楽でしたね。AD8307ANZへ


2021年9月18日土曜日

Measuring Instrument 1:Micro C Meter

1pF以下も測定可能なMicro C Meter

■コンセプト
今は4万円も出せば波形は勿論のこと電圧計・カウンター・スペアナ機能がついたデジタルオシロが買えます。あとデジタルテスター(DVM)があればとりあえずの回路検討には事足ります。
それでダメなときは測定器を自作してしまおうというのがコンセプトです。

■概要
容量測定はある程度の容量ならテスターでできますが、私のテスターでは100pF以下は誤差が大きく、10pF以下になると計測してくれません。
1pF以下も精度よく測定できる、簡素な回路ながら再現性が高い微小容量計を作りました。
1608の0.5pFを計測

微小容量計は30年以上前に売っていた秋月電子のキットがあります。当時の微小容量計の記事へ
当時とは部品の事情も大きく変わっているので、少ない部品で1pF以下も精度よく計測できるようにします。

■測定原理
原理は「微小容量計キット」と同じで、微分回路の応用です。微分回路の入出力電圧の関係は、
Vo=Vi/(1+1/jωCR)と表されます。
|jωCR|≪1なら、Vo=Vi*jωCRとなり、
jω=d/dtなので、Vo=CR*dVi/dtとなります。
すなわち時定数CRが十分小さければ、出力Voは入力Viの立ち上がり・立下りの傾きに応じた振幅になり、その値は時定数CRに比例します。
したがってVoをピーク検波すれば、Cの容量に応じた電圧を得ることができます。

■部品の選定
寄生容量や寄生インダクタンスを最小にするために、クリティカルな部分はSMD(表面実装部品)を使用します。主要部品は、秋月電子の発振モジュールLTC1799だけです。LTC1799
勿論CMOS Logicの74HC14あるいは74HC04で方形波を作ってもOKです。
ほかにDVMが必要です。私の場合は手元にあったLCD DVM AE-7136/3を使いました。

■基本回路
微小容量計キットとほぼ同じ回路ですが、ショットキーバリアダイオード(SBD)が1つになっています。SimulationではVdetはSBDが1つと2つでも大差ありませんが、抵抗の方がVoの波形がきれいに見えたからです。
微分回路のRに相当する抵抗はダイオード検波の入力インピーダンスになり、R2の約半分になります。
ViはLTC1799 で、立ち上がり時間Trは仕様書によれば17ns(typ)ですが、実測では16pF負荷で5ns@1MHz/10ns@100kHzでした。ただ、SimulationではTrを変えてもVdetはTrの変化に比べて緩やかです。ダイオード検波がピークと平均値の中間で動作しているせいかもしれません。

■Simulation
この基本回路で、V1を1MHz/5VとしC1を0.2pF~2pF変化させたときのVoutのSimulationです。
DVM AE-7136/3に合わせてVout=10mV/pFとなるようにR2を決めています。
Voutの変化は等間隔でリニアに変化しているようです。グラフにすると下記のようになります。
同じ条件でC1が2pF~20pFのときのSimulationです。Cが16pF以上でリニアリティが悪化しています。
V1を100kHzにすれば、C1が200pFまで同じ条件で計測できます。
やはり160pF以上でリニアリティが悪化していますが、150pF以上はDVMに任せることにします。

■回路図
LCD DVM AE-7136/3を使ったので、-5V用にTJ7660が必要になりました。
■PCB
秋月電子のユニバーサルC基板を使っています。
DUT端子(J2/J3)はテストピンを流用しています。いちいち半田付けするのは面倒です。

■実測
信用できるコンデンサで校正する必要があります。J(±5%)品しかないのでいくつか計測してエイやで決めました。
 
   

Receiver 3.4:Dual PLL Synchronous Direct Conversion FM Radio

2重PLL同期検波によるDirect Conversion FMラジオ-2 ■概要 Receiver 3.1で、Xtal発振を参照して自励発振のVCOを制御するの第1のPLLループと、そのXtalによるVCXOの発振周波数を制御する第2のPLLループを持つ2重PLL回路が、ループ...